勉強目的のはずが、いつの間にか商談になってしまう
着付け教室に通い始めて着物が着られるようになると、初心者の頃には分からなかった小紋と紬の違いや袋帯と名古屋帯の違いなど、着物や帯について様々な興味がわいてきます。
また、着付けの技術と着物の知識は車の両輪のようなもので、着物を上手に着こなすためには着付けの技術だけでなく、TPOや着物の知識が欠かせません。
そこで、着付け教室では着付けの練習と平行して、着物や帯の知識についても勉強を進めていくのが一般的です。ただし、着物や帯は様々な種類があり、産地や作り方も多岐にわたっているため、着付け講師ひとりの知識では対応できないこともよくあります。
そのため、着付け教室の中には問屋やメーカーの社員を呼んできて講義をお願いしているところもあります。
問屋やメーカーは商品を売るのが本来の仕事
確かに問屋やメーカーは着付け講師よりも取り扱う商品に対する知識量では優れています。
しかし、着物や帯を取り扱っている問屋やメーカーの人から商品知識を教わる場合には注意しなければならないことがあります。
それは、問屋やメーカーの社員は、作ったり仕入れたりした商品を消費者に売るのが本来の仕事だということです。どんなに親切に着物や帯の知識を教えてもらったとしても、それはあくまで商談の一部分であり、最終的には生徒に商品を買ってもらうのが目的だということを忘れてはなりません。
最初は勉強目的だったはずが、熱心に説明を聞いているうちに、いつの間にか着物を買わなければならなくなってしまう理由がここにあります。一生懸命教えてもらった手前、断るのも悪いような気がしてしまい、勧められるがままに購入することになるのです。
問屋やメーカーから直接購入できるから安いとは限らない
問屋やメーカーの社員が商談の際に使用するセールストークの中に、「小売店を通さない直接取引ですので、今回は特別にお安くさせていただきます」という常套句があります。
確かに呉服業界は複雑な流通経路があり、中間業者をなくせば価格が安くなるという一面はあります。しかし、流通手段や交通手段の発展に伴い、そのような非効率な商習慣はすでになくなりつつあります。
また、問屋やメーカーから直接購入したとしても、無料の着付け教室の場合は売上に対する仲介手数料が主な収入源となっていますので、販売価格にもその分が上乗せされていれば、本当の意味での直接取引ではありません。着付け講師が生徒に購入を勧めるのも、着付け教室に支払われる手数料があるからです。
悪質な事例となると、着物初心者に対して、物の良し悪しの判断がつかないのをよいことに、相場よりも割高な価格で販売するケースもあるようです。
勉強目的の生徒と販売目的の業者を会わせることがトラブルの原因
着付け教室の生徒と問屋やメーカーの社員はお互いの目的が全く異なっており、最初からお互いの利害が一致していません。そのような状態では、お互いが自分の目的のために相手を利用するだけの関係にしかならず、信頼関係を築くことはできません。
ネット上の口コミでは、問屋やメーカーが悪者扱いされることがありますが、タダで着物や帯の知識を教えてもらおうとする着付け教室の仕組み自体にも構造的な問題があります。
一方的に売りつけることは大きな問題ですが、問屋やメーカーに無料で商品知識を教えてもらう仕組みにも限界がきており、そのしわ寄せが消費者に及んでいるのが現状です。
結局のところ、勉強目的の生徒と販売目的の業者が一緒にならないようにすることが、トラブルを未然に防ぐことにつながります。
今後の着付け教室選びのご参考にしていただければ幸いです。